インタビュー : The DECK会員 / ホログラム株式会社代表 山地直彰さん
インタビュアー : The DECK代表 / 森澤友和
森澤
2019年にも山地さんにインタビューさせていただいており、The DECKとのなれそめや活用事例、今後取り組んでいきたいことをお話いただきました。ホログラム社の商品紹介を行う際にもインタビュー記事を活用させていただいております。
↓2年前のインタビュー記事はこちら↓
The DECK企業ユーザーインタビュー「ホログラム株式会社 山地 直彰代表」
森澤
XR(AR/MR/VR, etc..)分野、つまり、バーチャル空間を活用したソリューションをサービスとして提供されていますが、業界自体がとても先進的です。2年前の景色と、現在の景色、とくにコロナ禍にあっての事業環境について、急激に変わってきているかと思います。そのあたりをお話いただけますか。まずこの2年のあいだに新しい商品をいくつか発表されていますよね。クラファンも含めて。
山地
ひとつ新しく取り組んでいるのはクラウドファンディングもさせていただいた【ホロスター】です。
こちらはアップルウォッチをここにはめ込んで、装着すると、アップルウォッチの表示が視界の隅に表示されます。ハンズフリーでアップルウォッチにアクセスできるため、時計を見るために腕をあげる操作はいらなくなります。手軽に使える、いわゆるスマートグラスというポジションの商品です。
森澤
こちらは普段からアップルウォッチを使っているユーザーにとって、新しいアプリを入れたり覚える必要がないので、助かりますね。
山地
一般的なスマートグラスは、専用のハードウェアでできているので、そのためのアプリはそのスマートグラスを作った会社から出ているものに限定されます。そうすると、ユーザーは使ったことが無いアプリを入れ、操作を覚える必要が出てきます。さらに、新しいアプリを開発してくれる開発者がその会社の外部にもいて、展開を広げてくれるのか・・・といった問題があります。
そういったジレンマがあり、なかなかスマートグラス自体も普及せず、アプリも増えないという状況になっています。
弊社の【ホロスター】はアップルウォッチを活用するので、普段利用されている方にとってはアプリに対するハードルは下がります。できるだけシームレス(利用者側から見てそれぞれの違いを認識・意識せずに一体的に利用できる状態)にスマートグラスを使ってもうねらいがあります。
できるだけシームレスにバーチャル空間を日常に
森澤
このアップルウォッチの画面を常に視野に入れておきたい人って、どういう需要をもった人なのでしょう・・・かなりレアなニーズだと思うんですけど・・・。クラファンでは目標金額50万円に対して、536,700円達成されているアイテムなので、どういう人たちが支援および購入されたのか知りたいです。
山地
新型コロナの影響で、対面でのコミュニケーションや外出が減ったこともあり、街中で使われているシーンや活用例をヒアリングできておらず、実際の使い方の詳細を把握できていなのですが、多くは【新しいもの好き】【技術者・開発者】で、興味を持って支援してくださった方たちです。おっしゃるように、日常で装着するにはまだハードルがあることを感じています。
森澤
大手企業もスマートグラスの開発を進め、以前よりは低価格のラインアップも出てきている印象ですが、ホログラム社はこの業界のstart upとしてどう展開していく予定ですか。
山地
XR(AR/MR/VR, etc..)を普及させるにあたって、業界全体として導入コストや販売価格の壁があり、どこまで手に取っていただけるかという問題がありました。その隙間に弊社が入り込めないかという挑戦で、既存製品を使う方法を取りました。【だんグラ】だとスマートフォン、【ホロスター】だとアップルウォッチという形です。既存製品と組み合わせることで新たに必要なコストをおさえました。市場に対し、もうちょっと気軽に使えるAR・MRプロダクトというところで普及に貢献したいと思っています。
ですので、もっとリッチにいろいろ体験したいということであれば、大手が出しているものを買ってもらえたらと思います。まずは気軽にお手頃価格でARやMRの世界観を知ってもらいたいです。
徹底的にこだわった日常使いができる設計
森澤
インタビュー中【ホロスター】を試着させていただいていますが、めちゃくちゃ軽いですね。
山地
普段使いしていただく想定で設計したので、長時間つけていても気にならない重さと長時間バッテリーの仕様にしています。アップルウォッチを付けた状態で重さは100g未満で、バッテリーは24時間以上持ちます。今までのデバイスはサイズや重量、バッテリーの持ち等の面で課題があるものが多かったので、素材や設計はこだわりました。アップルウォッチのサイズ展開も2種類のみなので、そのサイズに合わせて調整できるようになっています。
また、開発のポイントとして3Dプリンターで接合部を作っているので、少し元データを調整するだけで簡単に部品も調達できるメリットがあり、コストカットができています。
完成度を高めていくために3Dプリンターは強い味方
森澤
3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションの活用は、ホログラム社にとってプロダクト開発に寄与している部分は大きいですか?
山地
そうですね。弊社はstart upということもあり規模も小さく資金力も大手と比べると潤沢にありません。試作品の微調整や改良のため都度金型を作ると膨大なコストになってしまいます。
3Dプリンターは比較的安価に部品を作れますし、試作の際のインテレーション(一連の工程を短い期間にまとめ何度も繰り返すことで次第に完成度を高めていくアプローチ)も短いスパンでいろいろ試せるメリットもあります。
2025年大阪関西万博を見据えて
森澤
最近メタバース(インターネット上の仮想世界)の話が出てきています。今まで展開していた領域を超えたものとして語られている印象です。例えばNFTの分野で聞きました。メタバースとXRのポジションの違いを教えてください。
山地
一番イメージしやすいのはVR空間上にもう一つの世界を作るところになると思います。それこそ2025年の大阪関西万博でもXR技術を使いながら参加人数を増やすという話がされていますが、バーチャルの空間の中にいろいろな体験コーナーが設計されている世界観はだいぶメタバースに近いものになると思われます。
森澤
今開催されているドバイ万博でもバーチャル入館できる各国のパビリオン(展示館)も用意されているみたいです。4年後の大阪関西万博でも視野に入っていて、議論されているのでしょうか。
山地
そうですね。それをかなり意識した公募を大阪府が発表していました。内容は、バーチャル空間で大阪を考想させるいろんなパビリオンを設置して、そこにインターネットを通じて人がアクセスし、その場所を体験できるものをサービスとして作って展開していくプロジェクトです。開発費税込1億円が出て、開発期間は半年ほどでした。
12月発表会予定!ホログラム社主催XR分野のコンテスト
森澤
ホログラムさんも独自でXR分野のコンテストを企画されていましたよね。
山地
はい。弊社主催のだんグラ・ホログラスデベロッパーコンテストAfter Corona 2021 開催を予定しており、コンテストを通じて、XRコンテンツやアプリケーション、制作する人を増やしたいと思っています。今年9月に募集を締め切って、今応募いただいた作品に順次目を通しており12月頃に発表を予定しています。
コンテストの結果発表の場はバーチャル空間とオフラインとのハイブリッドでできたらと思っています。リアルの場では、試着を含めた体験会がしたいです。
コミュニティの活用事例
森澤
ホログラム社はThe DECKに登記もいただき、メンバーの方はコワーキングスペースを使っていただいているのですが、同時に天神橋筋六丁目駅からすぐのコミュニティスペース【5.6】も活用されていますね。活用シーンの使い分けやそれぞれのメリットを教えてください。
山地
当たり前ですがその場が持つコミュニティというかユーザー属性の違いがあります。使い分けで言うと、The DECKの方は他社さんとの打合せをメインにしています。場所もわかりやすくアクセスもいいですし、中も綺麗で格好がつきます。オープンな空間で、弊社のデモ機を展示していただいているので商談や体験がスムーズです。
5.6の方はイベントをしているのですが、そのイベントを通じて【だんグラ】や【ホロスター】をより多くの人に知ってもらったり、体験してもらったりしています。こういった技術系イベントは平日の夜に開催されることが多いので、営業時間が長い5.6を使っています。
森澤
XRの未来について、そして変化の早いXR業界で、どういった展望を描いているのかお聞きしたいです。
山地
個人的な未来像ですが、一般の人もこういったデバイスを普段使いしている世界です。現実には見た目や重さ、バッテリーの長さの問題をはじめ価格や機能の問題があります。ただ、ハードウェアについてはどんどん改良できると思っているので、あとは世の中のニーズに合わせたソフトウェアを作っていくことが重要と考えます。
また、大阪駆動開発(https://osaka-driven-dev.connpass.com/) というコミュニティでは、メンバーの企業や個人の方に最新のXR情報を提供したり、ソフトを体験していただく中で、フィードバックをいただき改良に役立てさせてもらっています。VRやMRを知っていたり、1度体験したことがあるくらいでは、その企業や個人の方にとっての具体的活用シーンはイメージできないと思うので、地道に一人ずつ体験とヒアリングを重ねていっています。その繰り返しと改良の先に、少しずつでも普及していけばと思いこの活動を続けています。
森澤
とても共感します。The DECKもコワーキングスペースの一画にものづくりスペースを置き、デジタルファブリケーションを使っていただけるのですが、コワーキングスペースを打合せなどで利用される多くの人が3Dプリンターという言葉は聞いたことがあるが、動いているのを見たことが無かったり、出来上がったものがどういうものかを見たり触ったりしたことが無い方です。
そういう人たちに、コワーキングスペースをご利用いただくついでにちょっとでも「The DECKに行けば3Dプリンターがあって、作りたいものが作れるかもしれない」というインプットを持って帰っていただけたら、何かいいアイデアが浮かんだときに、まずはThe DECKに行って話してみるという選択肢を持っていただけるかもしれない。私たちはそのアイデアを実現するための場を提供し、アイデアを世に送り出すサポーターでありたいと思っています。
山地
私たちもThe DECKのそういったマインドや場の運営の在り方に共感し、いいなと思って使わせてもらっているので、XRの普及についても引き続きご協力をよろしくお願いいたします。
森澤
こちらこそ、ホログラムさんが描かれている世界への貢献をもっともっとしていけたらなと思いますのでこれからもよろしくお願いいたします!
山地 直彰さん
ホログラム株式会社 取締役社長 ゲームや遊技機などエンタメ系コンテンツを制作する会社での3DCGエンジニアとしての勤務を通じ、XR(AR/MR/VR, etc..)に興味を持つようになる。その後ソフトウェアエンジニアとして個人事業で活動。 その後イベントでホログラム社の前社長(現 代表取締役)の橋口 和矢さんと知り合い、事業に参画、2019年8月にホログラム社2期目となる節目で取締役社長となる。社外でもXR(AR/MR/VR)や3DCGなどのノウハウや情報の共有、エンジニアの交流を目的とするコミュニティにも積極的に関わっている。
ホログラム株式会社
XR(AR/MR/VR)に関するハードウェア、ソフトウェアの設計や開発を展開するスタートアップ。The DECKを活動拠点にしている。
- 低価格のMRグラス『だんグラ』、『ホログラ』の設計
- 開発者向けオープンソースSDKの提供
- 教育向けのコンテンツ、エンタメ系アプリケーション等の開発
- ビジネスAR/MR/VRアプリケーションの受託開発
会社ホームページ:https://ho-lo.jp/