インタビュー:The DECK 会員 安岡裕介さん

インタビュアー:The DECK 代表 森澤友和

 

-安岡さんは何をされている方ですか

 

もともとアウトドアメーカーのモンベルで、キャンプイベントなどを企画運営する仕事をしていて、並行して、アウトドア用品の試作・企画提案も行っていました。その試作のために大阪でものづくりができる場所を探していたんです。その時に初めてコワーキングスペースというのを知り、ものづくりスペースがあるThe DECKに出会いました。昨年独立し、アウトドア用品に限らず、製品の企画や制作をしています。

 

-最初はThe DECKで何を作られていたのですか?

 

カーボンを削って、登山やトレッキング用のストック(ステッキの一種)のパーツを作りたかったのですが、その時はいろいろ試行錯誤しましたがうまくいきませんでした。でも、都会の真ん中にものづくりができて、しかも料金が安くて、いいところを見つけたぞという思いではいましたね。

The DECKに出会うまでは、毎週土日を利用して、夜行バスで東京に当時あった大規模ものづくりスペース、「テックショップ」に通って、3Dプリンターを自分で作ろうとしていました。仕組みやプログラミングを勉強するところからはじめて2∼3年かかったのですが、設計方法や3D CADのスキルを習得することができたので、糧になったと思っています。

その後もっと精度の高いものを作りたくなりました。The DECKには本格的なCNC 切削加工機があり、しかも安く利用できることを知って、ラッキーと思いました。

テックショップで習得した技術を活かしながら、ここのCNCを使わせてもらって、3Dプリンターで一番重要なエフェクターという部分を精度高く作ることができました。

 

-覚えています!三角形のパーツですよね

 

はい。そんなことを当初していました。

その後、子どもができたのですが、子供がベビーベッドで休んでいる間の監視が自動でできるベビーモニターを自作できるのではと思いました。そのモニターの外装を、The DECKのレーザーカッターを使って作る中で試行錯誤していたら、森澤さんとよく話すようになり、もっとものづくりがしやすい環境にと思い会員になりました。

 

-そうでしたね。ベビーモニターはその当時販売されていなかったのでしょうか

 

あるにはありましたがサブスクリプション契約のものが多く、機能制限があったり、値段のわりに機能が不足していたり、思い通りのものがなかったんです。もっと手軽にスマートフォンでチェックできるものを自前でプログラミングできるのではと思い、実際作ることに成功しました。

 

-世の中にある製品やソリューションに満足できないとき、ちょっと頑張れば思うものが作れるという原体験がそこで生まれたのですね

 

そうですね。買ったら何でも揃う時代なんですけれど、逆に選択肢が奪われているような気もしています。工夫したり、自分でのこぎりひいたりするよりも安く手軽に手に入ってしまう時代です。自分でものを作るという行為は、ある意味遠回りになってしまいます。でも実はそれがすごく面白いのに、その「面白さ」は確実に我々の生活から奪われているなと感じています。

 

ものづくりは、僕にとって人生を通して大事にしている部分です。そのために必要な環境にアクセスできることは、その部分が充実するのでいいなと思っています。

 

-The DECKを、ユニークに感じるところはありますか

 

ものづくりの世界って結構閉鎖的というか、マニアックな世界観がある場が多いです。でもThe DECKは、雰囲気なのか、構造なのか、スタッフさんの声掛けのおかげなのかわからないですけれど、作品を見てもらえる環境があります。

作っているものに対して興味を持って声掛けいただく人が、専門店で出会う人と比べてもっとカジュアルというか・・・。知識がないけれどおもしろがって興味をもってくれる人や、出会いをきっかけに自分も何か作ろうとされる方もいらっしゃるので、なんというか・・・関わる対象が広くなる感覚です。

作品は見てもらいたいし、多くの人にものづくりの世界に入ってきてほしいという思いをもっています。その思いや行動を発信しやすい環境が整っていると感じます。

ものづくりについて質問してもらえたら嬉しいですし、何でも協力したくなる。The DECKはとくにそんな場です。

 

-そういえば、The DECKの利用者で、ものづくりの想いはあるけれど実現する方法がわからない、、と困っていらっしゃった方をご紹介したことがありましたね。

 

はい。少年ジャンプに「ドクターストーン」という科学漫画があります。それに出てくる歯車の機構を自分で目にしてみたいという社会人1年目の方でした。漫画やネットで調べたら動いている仕組みは見ることができるが、はやり自分の目で動いているところが見たいと話してくれました。

3Dプリンターでも、レーザーカッターでも、CNCでも作ることが出来るよと説明する中で、自分は昔3Dプリンターを作ることでそういう仕組みのいろはを身に着けたんだよと伝えました。

そしたら「僕も3Dプリンターを作ります」ということになって・・・。

 

-え!?そうくる?!笑

 

とても嬉しくて、今でもサポートをしているのですが、やっぱり1から作ってみようとする人は何パーセントかはいます。

そういった種というか芽というか、人材を育てていくと、僕がこの年になって覚えている技術より、その方が本気になって技術を磨いて僕の年になった時に身に着けている技術や知識の幅は増えていると思うんです。

 

-そうですね。

 

それが面白い!僕は昔からアウトドアでも子どもに対して川遊びの方法などを伝えてきた人間なので、もっとカジュアルにものづくりができる人間を次の世代に一人でも二人でも増やしていきたい。

そうすることでものづくりの面白さがもう一つ上の段階にいくと信じているので、「手伝いたい」って思います。

 

-素敵な想いですね。先ほどおっしゃっていた川遊びを教える活動について、本業とは別にされているのですよね。

 

徳島県に吉野川という綺麗な川があるのですが、そこで僕は15年くらい【川の学校】というのをやっていまして、年間30人の子どもたち(全国から男の子15人、女の子15人・小5~中3)に対してがっつり二泊三日のキャンプを年5回実施します。

その中で川遊びをするのですが、スケジュールのないキャンプなので「次は魚釣りの時間だよ~」とか「次は魚のエラの数を数えてみよう」などの指示はせず、ただただ川で遊びます。やりたいことをやる。潜ったり、突いたり、料理したり。

川がええもんやというのを知ってもらう一番の方法は、川で遊ぶことだという思いで続けています。この活動もものづくりと同じかわからないですが、一人でも二人でも、川がええもんやということを知っている子が全国に居れば、川は少しでも綺麗に保たれるだろうと。

本当に綺麗な川・安心して遊べる川はどんな川なのかを知っていてほしいと思っています。

飛び込んで水を飲んでしまった。飲んでもお腹を壊さない。潜ったら岩の下に隠れていたナマズと目が合った。水は透き通って美しい。そんな光景や体験を得た子供たちに育ちます。

 

僕は2012年からその川の学校の代表になり、今まで400人ほど子どもを育ててきたのですが、卒業生たちはバスに乗っていても、電車に乗っていても、川があればずっと川を見てしまうと話してくれます。また、生活に使われている身近な川を見た時に、子どもたちは「ああ、こんな感じの川か」と感じていると。川の良し悪しがわかるようになっているんですね。

同様に、ものづくりでも、自分が作り手として体験しておくことで、商品として売っているものを手にとった時に、加工手法や手順、もっと言うと、作り手の熱意まで感じられるようになります。

 

-それは僕も思いますね。自分で作ってみたら、世に売られているプロダクトのレベルがいかにすごいもので、それがこんな価格で売られていることに対して感謝の気持ちが芽生えるし、大事に使うようになりますね。また、作り方がわかると直し方がわかるので長く使うことができます。サスティナブルなマインドを育てるきっかけになりますね。

 

そうですね。確かにものづくりを志す者として持っておきたいマインドです。ものづくりをすればするほど、浪費に対するもったいなさや不誠実さを感じるようになります。

 

-そんな話を踏まえて、絶賛展開中のMAKUAKEでのクラウドファンディングのプロダクトについてもぜひ教えてください

 

製品としてはiPhoneのアクセサリです。iPhone12シリーズから採用されたマグセーフという背面に付いているマグネットの機構を利用したものです。何とか特許も取れました。ワイヤレス充電にも対応した着せ替えバックプレートで、木製の表面を用いていることから、MOKUMEと名付けました。

世界中から集めた4種の木材を採用しています。毎日の仕様に耐える強度と比類のない質感、2つと同じもののない自然のものならではの木目がiPhoneをより引き立てます。

iPhone12 シリーズは、レンズ部分が”でっぱって”います。デスクに置いた際のガタつきや、レンズが傷つくリスクが生じてしまいます。今回製作したバックプレートを装着することによって、iPhoneの背面がフラットになり、ガタつきや傷つきやすさのリスクを減らせます。

 

5月28日に終了するので、あとわずかですが、初めてクラウドファンディングに挑戦して、難しさや効果なども知れたので、いい機会になったなと思います。

この商品のプロトタイプもThe DECKのCNCを使って作り、それがどんどん精度をあげていき商品化するまでになりましたので、いいきっかけをいただいています。試行錯誤できる場として、製品開発という場面でダイレクトに助けていただきました。

今後も進化させた商品を作っていきたいと思っています。

The DECK会員 安岡さんのクラウドファンディング進行中!(目標達成済み)

新発想のアクセサリ!iPhone12シリーズ用MagSafe対応バックプレート

https://www.makuake.com/project/mokume/?token=3e79341c4b14b29c1feaef7ea23410b6

 

 

-ありがとうございます。本当に面白いお話を伺うことができました。アイデアがあることと、それを実現する手段を知っていることの両輪が大切ですね。両方あると実現までのスピードが早いですが、思いついたアイデアを実現させるための次の一歩を思いつかないケースが世には多くありますよね。もし実現していたら、今の世界を変えていたかもしれない素晴らしいアイデアも、手段がわからなかったから世に出ることなく忘れられてしまったものもあるはず・・・。アイデアを実現する手段やサポートを提供できたらと思い、The DECKは ” Make It Happen ” というコンセプトを掲げて運営しています。

サポートのかたちは、ものづくりの機材を使って実現できるアイデアかもしれないし、誰かできそうな人に繋げることかもしれない。 そういったお繋ぎをさせていただくことが、存在意義なのかなと思っています。 ですので、今日お話いただいたエピソードは、我々の存在意義を実感できる例でしたので、めちゃくちゃ嬉しく思います。

 

-今後Make It Happenさせていきたいことはありますか?

 

最新技術を追う流れの中で、ずっと同じものが使えない状況が増えていますよね。例えば、これはiPhone12ですが、充電ケーブルの形状が変わったりしてずっと同じモデルを使えない。どんどん新しくなっていく。

それは仕方ないことなのですが、全てにおいて適応されてしまうことに疑問を感じています。何でもかんでも最新モデルが一番いいものなのか。

デザインを変えずに、10年20年使えるものを作ることが減ってきています。

進化は必要ですが、何十年も自分と一緒に育つような、愛すべき相棒と思い使い続けられる道具を僕は作っていきたいです。

そのために一番重要なのは、最初に、どこまでもデザインを考え抜いて、こだわって丁寧に作ることです。経年劣化に耐えられる耐久性や、味わいを出していける仕組み。長く愛される道具。壊れた時にどうすれば自分でメンテナンスしていけるかの方法を提供する。

そのためには自分も修理方法や加工方法、カスタマイズ方法を学ばなければなりません。そしてお客様にお伝えしていく。そんな事業を展開していきたく思います!

 

-今SDGsが言われており、消費やものに対する考え方のパラダイムシフトが起こっています。The DECKとしても大切にしている部分ですので、今後もご一緒させてください!本日は素晴らしいお話をお聞かせいただきありがとうございました。