Co-Learning with CORONAは、The DECKの新しいイベントシリーズです。

人が集まることを価値としてきたコワーキングペースがコロナ禍に提供できることは何か。それは思考と学びの機会を提供すること。この仮説をもとに、そのきっかけを提供してくれるThinking Accelerator(TA)をお招きし、TAによるトーク後、参加者同士で交流するという構成のイベントです。 2020年6月に開催された第1回のテーマは、「緊急事態宣言収束後に始まる、緊急事態とは」。 働き方改革のコンサルテーション事業を行う、コクヨ社の坂本 崇博(たかひろ)氏と、コミュニティ研究者兼AIコンサルタントである、エクサウィザーズ社・今井 悠資(ゆうすけ)氏をTAとしてお招きし、「考える」きっかけを存分に提供いただきました!今回のレポートでは、TAと参加者の皆さんのケミストリーから生まれた思考やアイディアをご紹介します。 目次

  1. 考えることを「加速」する
  2. 本当のDXとは、ワークスタイルや経営が変わること
  3. 目の前のことと一見関係のないコミュニケーションを、自分で拾いにいく
  4. Withコロナ時代の「場のあり方」
  5. 場の価値を左右するつなぎ役
  6. つなぎ役は、人間かAIか

考えることを「加速」する

 決して逆戻りすることのできない、ニューノーマルの世界を生きることを余儀なくされた私たちは、家庭・仕事・プライベート全てを通して自分ごととして対処していくことが問われています。完全に新型コロナウイルスが収束する、「Afterコロナ」がやってくるのはしばらく先のことである以上、「Withコロナ」時代を生きる術を積極的に考えていく必要があります。しかし、情報過多な現代では、ニュースを見聞きしたり記事を読んだりというインプットだけで思考を整理することは難しくなってきています。こうした時代で、みなさんはどうやって「Think(思考)」していきますか?  ひとつの解は、「誰かと一緒にThink(思考)」することではないでしょうか。誰かの意見を聞き、その意見に対するフィードバックを話したり、自分の意見との差異を感じて、そこからまた思考したり。そうする中で、自分の考えが整理されていくことがあると思うのです。この現象を、TAの坂本氏は「話すと、考えることが加速する」と形容します。この一連のシリーズでは思考の加速をTAとともに進めていきたいという意図でスタートしました。

本当のDXとは、ワークスタイルや経営が変わること

  エクサウィザーズの今井氏の「緊急事態宣言中は、生活や仕事の面で元の状態には戻れないと考えていた。ところが、実際には緊急事態宣言後にも、働き方や生活習慣の面で元の状態が戻ってきたものもあったと思う。元に戻ったもの・戻ってこなかったものを振り返ってみることも良いかもしれない」という話からスタートしました。坂本氏からは、「Work at Online(これまでやってきたことをただオンライン化する)というのは、DX(Digital Transformation) ではない。本来のDXはワークスタイルや経営そのものが変わること。いかに現在のWithコロナ状態を逆手に取るか」という発言もありました。AIコンサルタントの今井氏からは、1on1の出来・不出来を人工知能で解析して改善につなげるなど、デジタルデータを使って企業価値をあげていく事例が共有されました。その後、参加者のブレイクアウトセッションでは「コロナで職場が変わったこと、変わらなかったこと、自分自身にとっての緊急事態的な展開はどんなことだったか?」をディスカッションし、各グループで大いに盛り上がりました。

目の前のことと一見関係のないようなコミュニケーションを自分で拾いにいく

  坂本氏のインプットタイムは、「世界はもう戻れない。」という言葉からスタート。変わってしまった世界に適応して進化していくのか、なんとなくニューノーマル的なものを模倣していくだけになるのか、その分かれ道にきているという指摘でした。事務作業をオンライン化するという発想ではなく、そもそもこの事務作業は要るのか?会議は、この決裁プロセスは、必要なのか?という思考をすることが求められている…。そんな思考に不可欠な、「顔を合わせたときのちょっとしたコミュニケーションをきっかけとした思考」の機会を得ることが困難になったという現在の問題点を坂本氏は指摘します。さらに坂本氏は「思考を広げるためには、目の前の仕事とは関係ないようなふとしたコミュニケーションを自分で拾いにいかないといけない」と付け加えました。目の前の仕事とは一見関係ないことを自分で拾いにいくことが、思考の源泉になる。どうすれば、このようなコミュニケーションが生まれるのでしょうか?  

Withコロナ時代の「場のあり方」

  そのヒントが「場のあり方」を捉え直すことにあるのではないかという議論に発展しました。以前は「場」と言えば、「スペース(作業場)」や「プレイス(コミュニティ)」だったと坂本氏は言います。スペースは物理的な場で、プレイスはオンラインも含めた所属とも言えるもの。このスペースやプレイスの機能はこれからも重要であることは間違いないが、これからは、場には「Chance(何かが生まれる機会)」や「Experience(何か新たな体験ができる機会)」の機能が求められるのではないか、と坂本氏は強調しました。オペレーション(作業)やコミュニティ形成(所属)以外に、クリエーションにつながるチャンスが得られる場がより求められるということです。The DECK代表の森澤は、コロナ禍でクローズしていっているコワーキングスペースも実際にあることに言及しながら、チャンスやエクスペリエンスを生み出すような積極的な場を運営者が提供していくことが大事だと話し、コミュニティ運営者ならではの視点を共有しました。

場の価値を左右する「つなぎ役」

 「コロナ後は世界の価値観、行動様式が大きく変化した(破壊的)イノベーションの時代になる。そして、イノベーションを起こすには、作業環境や既知のコミュニティだけでなく、新たな枠を越えるチャンスがとても重要になる」と坂本氏。そのために、枠を越えることを支援し、場の価値を左右する「つなぎ役」が必要になるという話がありました。北新地や銀座のママや、コワーキングスペースのコミュニケーターのように、人や場の特性を観察し、信頼関係のもとで、人と人ないしは人と場(プレイス)をマッチングする役割が必要だということです。  新たな何かを生み出すチャンスやエクスペリエンスの場が求められる中、こうし「つなぎ役」は非常に大切な存在となるとTAの2名は強調します。新たな人とのつながりづくりや、新たな場へのアクセスには「リスク」と「コスト」が伴うという視点が紹介されました。自分1人のネットワークやアンテナでは新しいチャンスを得る場を見つけるにはどうしても限界があり、無闇に色々な場に飛び込んでしまうと、「なにも得られないリスク」や「面倒に巻き込まれるリスク」があるかもしれない。また、手当たり次第にやっていくスタイルだと、金銭だけでなく時間というコストもかかってしまい、つなぎ役はそのリスクとコストを回避することを支援してくれる貴重な存在だという話がありました。

「つなぎ役」は人間か、AIか

 森澤からは、コミュニティコーディネーター(人)がそのつなぎ役となることを紹介しましたが、今井氏はAIの可能性についても言及。人の行動予測ができ、ある人と会うとどのくらい自分にビジネスチャンスが起きるのかということをAIツールを使い解析することも非常に有効になると今井氏は言います。「これまでは、自分なりの直感や経験で動いてきたが、この判断をAIがサポートしてくれるということが、これからの物理的あるいはバーチャルなスペースに提供されるのではないか。」と坂本氏も言います。坂本氏は、従来のつなぎ役となってきた「人」に、テクノロジーを生かした付加価値向上(DX)を組み合わせることで、「つなぎ役」のあり方のアップデートができるのではないかとの提案が。AIによる人の情報の蓄積、新たなチャンスにつながりそうな人のサジェスト機能やマッチング時の成功可能性分析機能、これらはつなぎ役のスキル補完になる。さらに言えば、つなぎ役はバーチャルな存在でも良くなるかもしれないとまで坂本氏は述べ、TheDECKメンバーにもかなり関わる議論の展開に、参加者は興味津津です。このように、人と人のマッチングや、人と場のマッチングを支援するつなぎ役のアップデートは、これからの「チャンス、エクスペリエンス」が求められるコロナ後時代に、非常に有効なソリューションになり得るのではないか、という話で今回のセッションは締めくくられました。これからの場は能動的に作っていくべきだという議論ができたことは私たちThe DECKにとってもとても貴重な知の蓄積となりました。 その後希望者のみで別のオンライン会場にて交流会が開かれ、イベント中のディスカッションでは話しきれなかったことを存分に話し合える交流の機会となりました。 これまでの「場」は受動的な場だったが、これからの場は能動的に作っていくものだという議論を深くできたことは私たちThe DECKにとってもとても貴重でした。Co-Learning with CORONAは、単発のイベントではなく、TAを替えて今後も展開し、「Think(思考)」を加速する機会を提供していきます。